離婚伴う財産分与と詐害行為取消権二宮ゼミ2010.6.7張挺法学研究科博士課程目次I事実関係II裁判所の判断III位置づけと争点IV学説Ⅴ私見Ⅵ参考文献I事実関係1977年にAは兄とともにB会社を設立した。Xは、Aに対し、1991年5月15日に貸し付けた貸金債権を有し、これにつき、AからXに6005万9714円及び内金5928万1396円に対する1992年2月14日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払うべき旨の確定判決を得ている。Aは、B株式会社の取締役であったところ、多額の負債を抱えて借入金の利息の支払にも窮し、1992年1月末、B株式会社の取締役を退任し、収入が途絶え、無資力となった。Xは、Aに対する前記確定判決に基づき、大阪地方裁判所に対し、前記貸金債権の内金500円を請求債権として、B株式会社に対する給料及び役員報酬債権につき差押命令を申し立て、同裁判所は、1995年8月23日、差押命令を発した。他方、YとAは、1990年10月ころから同居し、1991年10月5日、婚姻の届出をしたが、Aは、働かずに飲酒してはYに暴力を振るうようになり、1994年6月1日、Yと協議離婚した。YとAは、他の債権者を害することを知りながら、1994年6月20日、AがYに対し、生活費補助として同月以降Yが再婚するまで毎月10万円を支払うこと及び離婚に伴う慰謝料として2000万円を支払うことを約し(以下「本件合意」という。)、これに基づき、執行認諾文言付きの慰謝料支払等公正証書が作成された。Yは、Aに対する前記公正証書に基づき、大阪地方裁判所に対し、生活費補助220万円及び慰謝料2000万円の合計2220万円を請求債権として、Aの訴外会社に対する給料及び役員報酬債権につき差押命令を申し立て、同裁判所は、1996年4月18日、差押命令を発した。また、訴外会社は、1996年6月24日、大阪法務局に261万433円を供託した。大阪地方裁判所は、YとXの各配当額を各請求債権額に応じて案分して定めた配当表(以下「本件配当表」という。)を作成したところ、Xは、配当期日において、異議の申出をした。XYAB本訴貸金等(元本)60005万9714円(内金500万円)(損害金)1865万6277円差押債権差押債権離婚に伴う慰謝料2000万生活費補助(月10万)220万給与役員報酬Xの請求:本訴において、主位的請求として、本件合意が通謀虚偽表示により無効であるとして、本件配当表につき、全額をXに配当するよう変更することを求め、予備的請求として、詐害行為取消権に基づき、YとAとの間の本件合意を取り消し、本件配当表を同様に変更することを求めた。事実関係図II裁判所の判断1.一審、二審の判断(1)一審の判断(大阪地裁H9.7.25)「右認定の事実によれば、前記慰謝料及び生活補助金の額は、被告らの婚姻期間、安澤(即ちA、以下同じ)の経済状況に照らして異常に高額であり、しかも本件公正証書が作成された平成六年六月当時は、安澤には、多額の負債があって、右慰謝料及び生活補助金を支払う資力は全くなかったのであり、現実に右合意にしたがった金員の支払が一回もなさらず、また、右金員を支払うとした形跡も窺えないことからして、右慰謝料及び生活補助金支払の合意は被告と安澤との間で仮装されたものと認めるのが相当である。以上のとおりであるから、本件公正証書記載の慰謝料及び生活補助金支払の合意は通謀虚偽表示にあたり無効なものというべきである」として、原告の主位的請求を容認して。(2)二審の判断(大阪高裁H9.11.20)「先に認定した事実からすると、控訴人と安澤が離婚を仮装したことまでは認められず、両者の協議離婚は両者の真意に基づくものと認められる。そうだとすると、右協議離婚に伴う本件合意が通謀虚偽表示によると認めることは困難であって、被控訴人の主張は採用できない」。また、本件合意が通謀虚偽表示であるとはいえないが、本件合意における生活費補助及び慰謝料の額は、その中に財産分与的要素が含まれているとみても不相当に過大であって、財産分与に仮託してされたものであり、詐害行為に該当するとして、予備的請求を認容した(原判決主文は、単に控訴を棄却...