[電子社会と市場経済]電波資源の有効利用大阪学院大学経済学部おに鬼き木 はじめ甫1.はじめに読者の多くは、電波が広く使われていることを承知しておられるだろう。テレビやラジオは数十年前から日常生活に溶けこんでいるし、携帯電話は 2 人に 1 台の普及率で、今や必需品に近い位置を占めている。マイカーに衛星電波利用のナビゲーションを取り付けた人は、行く先々で自車の位置を正確に表示する能力に驚いているかもしれない。駅の改札でカードを改札機に近づけるだけで通れるシステムも始まっており、類似のサービスは劇場などの施設やオフィスビルにも普及するだろう。・電波はこのように身近なものだが、その「供給側の事情」はあまり知られていない。従来は電波がふんだんに使えたので、電波利用の制度や仕組については、政府事業者など・の専門家に任せておけばよかったのである。しかしながら、電波利用が急速に拡大した結果、昨今ようやく「電波の不足」が言われるようになり、電波利用の問題が多くの人の関心を集めている。本稿では、これまで電波がどのような経過で、どのような制度のもとで利用されてきたか、最近どのような問題を生じているかについて説明する。その上で、今後ますます需要が増大する電波をどのような「仕組」で分け合い、利用すればよいか、そこにどのような利害得失が搦んでいるか、国民多数つまり消費者のためにこれを解決するにはどのような方策をとればよいかについて、筆者の考えを述べる。これまで電波利用は「政府の直接割当という社会主義型制度」下にあったが、現在電波不足に直面してこの制度が行き詰まっており、将来の改革は「電波資源の市場経済型配分再配分」を目指すべきである、というのが本稿の骨子である。まず、電波利用の歴史・と現状を簡単に説明しよう。2.電波利用の歴史と現状電波の利用は、約 100 年前に始まった。当初の利用方式は、トンツーの・2 個の符号を組み合わせる「電信」で、船舶航行や軍事に使用された。1920 年代から中波を使用するAM ラジオ放送が始まり、第 2 次大戦中から電波のレーダー利用も開始された。戦後 1950年代になると(アナログ)テレビや FM ラジオ放送が実現され、その後、多数の応用が開花している。最近では携帯電話に加え、テレビのデジタル化やインターネットアクセス・のための無線 LAN が話題になっている。電波利用の急速な発展は、...