康橋(こうきょう)との別れ徐志摩(じょしま)軽くぼくは去ってしまう、ぼくが軽く来たる如し(ごとし)ぼくは軽く手を招き、天辺(てんぺん)の彩雲(さいうん)に別れの挨拶をするその河畔(かはん)の金柳(きんりゅう)は夕焼けの中のお嫁様であろう波光中(はこうちゅう)の艶姿(えんし)の影はぼくの心中で荡摇する(とうようする)軟泥(なんでん)の上のあんずは油油(ゆうゆう)と水底(すいてい)で振る舞う康橋の軟波(なんぱ)の中でぼくはむしろ一本の水草(むずくさ)になりたいその楡(にれ)の陰の下の潭水(たんすい)は清泉(せいせん)ではなく天辺の虹が浮遊藻(ふゆうも)の間に散らばり、虹のような夢を沈ませているのだ夢探し?一本の長い蓬(よもぎ)を支え青草の青い奥迄(おくまで)伸びと遡り星の清輝(せいき)を船に満載(まんさい)しながら星の清輝の中で放歌するのではけれど、ぼくは放歌(ほうか)するつもりはない、静かは別離の笙(しょう)なので夏虫もぼくのために沈黙(ちんもく)している、沈黙こそ今晩の康橋なのだ静かにぼくが去ってしまう、ぼくが静かに来たる如しぼくは袖を揺らし揺らし,一片(いっぺん)の彩雲も連れて行かない